(試験ならば即座に)
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
試験ならば即座に答えてしまえるものを、この日の(A)この質問には本当に悩まされた。答えようにも(B)私にはひとりも友達らしいものはなかったからである。
しかし、ひとりも友達がなかったと言って、私は人に馬鹿ばかにされて相手になって貰えなかったのではない。かえって私は人に畏
お それられていたのである。私は大人びた子供で学科も不出来ではなかったし、私の家は医者だというので田舎町の純朴じゅんぼくな人たちは尊敬していてくれた。そういうわけで、小さな我々の仲間までが、私をへんに畏敬いけいする風があった。それに私は、いつもひとりで遊んでいる無口な子供ではあったし、誰
だ れも用事の時の外には、気軽に口を利いてもくれなかったのである。それを、私はふだんはたいして不幸にも思ったのではない。しかし、今日こうして、お前の友達は誰々だと問われると、すぐに答え得る名のないのを寂しく思ったのです。そのうえ、私は先生に向かってきっぱりと友達はひとりもないと書くことは出来なかったのです。どうしてだかしりません。いろいろと考えた末で私は、教室における自分の座席のぐるり四、五人の子供の名を順々に書き並べたのです。何故かというのに、その子供たちが、(C)そういう位置に置かれた自然の関係として、自然と、最も多く私と口を利く機会が多かったからでした。
その時間が過ぎてしまって、自由な時間が来た時、子供たちは,今のさっきの先生の質問をさも重大な事件のように話し合っていた。彼等は皆、人々に、おれはお前のことを書いたというようなことを言い合っていた。しかし、私に向かってそんなことを言いかけた者はひとりもなかった。すると、いつものように黙っている私のところへ来て、ひとりの子供が話しかけた????
「あんた。誰書いたんな?」
その子は快活な口調で言った。それは教室で私のすぐうしろにいた子供であった。きさくな性質で、気むずかしげな私に対しても常から最も多く口を利いていた。彼に対して私は答えた????
「おれはあんたの名を書いたんじゃ」
その答とともに、彼のはしゃいでいた顔は(D)一刹那せつなにがらりと変化した。しばらく無言だった彼は、やと私に言った。????
っ「こらえておくれよ。のう、わあきゃあんたをわすれたあった。わあきゃあ、ぎょうさんつれがあるさか」
三十年を経た今日、彼のその言葉を、私はそっくりとその田舎訛なまりのままで思い出す。そうして私は彼のこの正直な一言に、(E)
今も無限の友情を見出すのです。ひょっとすると、これが私のうけた第一の友情ではないかとさえ思われるくらいです。
(秋田県)
問一(A)「この質問」の内容にあたる言葉を文章中から十字以内で抜き書きしなさい。
問二(B)「私にはひとりも友達らしいものはなかった」とあるが、それはなぜか。次から一つ選んで、符号で答えなさい。
ア 友達のいない寂しさに、仲間は気がつかなかったから
イ みんなに馬鹿にされ、相手にしてもらえなかったから
ウ 無口なうえ、医者の子として人々に畏敬されていたから
エ 学科もでき、大人びていたので仲間がいやがったから
問三(C)「そういう位置」とはどんなことを指しているか。文章中から見つけて九字で抜き書きしなさい。
問四(D)「一刹那にがらりと変化した。しばらく無言だった彼は」とあるが、このときどういう心の変化があったと思われるか。次の文の?a?,?b?にあてはまる言葉をあとのア?カから一つずつ選んで、符号で答えなさい。
「私」の答えに、?a ?自分が「私」の名を書かなかったことにb を感じた。
ア あわれみイ なげきウ 怒り
エ すまなさオ 寂しさカ 驚き
問五(E)「今も無限の友情を見出す」とあるが、それはどんな友情か。次から最も適当なものを一つ選んで、符号で答えなさい。
ア ともに迷い、悩んでいく過程のなかで結ばれる友情
イ ともに謙虚さをよそおいあうなかで結ばれる友情
ウ ともに思いやる心の温かさのなかで結ばれる友情
エ ともに孤独に耐えて努力するなかで結ばれる友情
解答
問一お前の友達は誰々だ
問二ウ
問三自分の座席のぐるり
問四a カ b エ
問五ウ
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