(自分で飛び込む)
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
「自分で飛び込む。」
洪作は岡の手を払って立ち上がった。そしてもう一度下をのぞいた。
①海面まではさっきよりまた遠くなっている。洪作は再び座り込んだ。岡が襲いかかって来た。もみ合っているうちに洪作は中腰になった。その洪作の背を岡の手が突いた。洪作の体は飛込台から離れた。②洪作は自分の体が、ぞうきんでも落ちていくように、ひどくみじめな固まりとなって落下していくのを感じた。何か大きな叫び声を口から出したと思うが、あとは夢中だった。小さい三角波がぶさぶさとぶつかり合っている紺青の海面が、あっという間に近づいたと思うと、洪作はその中に自分の体が突きささるのを感じた。
腹部にはげしい痛みを覚えた。それと一緒に潮の中へ沈んで行ったが、すぐまたそこからはじき返された。ひょっこりと首が海面に出た。何も見えなかった。首を出した周囲は波ばかりだった。
うわあっ! 洪作は手をばたばたさせた。おぼれると思った。が、すぐ??的に足だけを動かす立ち泳ぎの姿勢をとった。体は浮いていた。首を海面に出したひどく頼りない格好だが、体が浮いていることだけは確かだった。飛込台から飛び込んだはずなのに、その飛込台はどこにも見えなかった。すると、自分を海の中へ突き落とした岡の顔が、半間と離れていないすぐ近くの潮の中から浮かび上がって来た。
岡は口から海水を吐き出してから、
「岸まで泳いで行け。俺がついて行ってやる。」
「俺、だめだ。飛込台まで連れてって、おぼれる。」
洪作は必死だった。本当におぼれそうだった。
「ばか、やぐらはおめえのうしろにあらあ。」
その言葉で、洪作は夢中で体の向きを変えた。なるほど飛込台は半間と隔たっていないところにあった。洪作は、いきなり、その脚の一本につかまった。やれ、やれと思った。ここにつかまっている限りは、深い海底へ落ち込んで行く心配はなかった。
飛込台のすそにかじりついてから、恐怖感が改めて洪作をわしづかみにした。
問一本文中の? ?に最もあてはまる語を漢字二字で書きなさい。
問二①「海面まではさっきよりまた遠くなっている」には、洪作のどのような気持ちが表れているか。それを表す最も適切な単語を本文中から抜き出しなさい。
問三②「洪作は自分の体が、ぞうきんでも落ちていくように、ひどくみじめな固まりとなって落下していくのを感じた」のように洪作が感じたのは、どういうことがあったからか。三十五字以上、五十字以内で答えなさい。
(静岡県)
解答
問一本能
問二恐怖感
問三洪作は一度は自分で飛び込もうとしたが、勇気がなくて自分では飛び込めず、岡に突き落とされたから。
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