(ぼくらは先生に連れられて、臨海学校へ出かけた)
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
(ぼくらは先生に連れられて、臨海学校へ出かけた。太平洋の波がゆったりうねって、太陽が頭上から照りつける午後、級友たちは先生を先頭に沖を目指して泳いだ。泳げないぼくはボートで後を追った。やがて級友たちは疲れ、ボートにつかまったり、岸に向かてもどり始めたりした。しかし、先生と利彦としひこの二人だけは、さらに沖に向かって泳ぎ続けていた。)
っ かれらは何に向かって泳いでいるのか、行く手には先刻数人の級友たちがボートの周りに点在していた時と同じく、何もない。ただ青いうねりはるか向こう、ぼやけた水平線の上に、銀色に輝く積乱雲の幾峰かがあるだけだった。
のおーい。」
「 ぼくは大声で呼んでみた。しかしそれは人の耳にはいるはずがなく、かれらのなめらかな腕の動きは衰えの気配をみせなかった。
二 ぼくの心は少しいらだちはじめていた。
太陽に向かって伸び上がっている積乱雲。あれはいつもぼくの心を何か遠い思いに誘う。あの雲を見つめていると、ぼくの体も心もしだいに熱っぽくなり、ぼくはそのゆるやかな動きの中で、何も思わなくなってしまう。ぼくは積乱雲が好きだ。が、今はちがう。今その雲に向かって進んでいるのは、ぼくではなく、先生と利彦の二人だ。二人だけが潮の流れに抗して、あのぼやけた水平線の上の青い空に高い姿勢をさらして光っている雲を、目指しているのだ。二人に対するねたましさの中で、ぼくのいらだちは激しくなっいった。
て と、利彦の頭が波のうねりの中でひときわ高く伸び上がり、先生の頭に向かって何か叫んだようだった。(A)ぼくはそれにこたるように、「うおー。」と声を上げると、オールを持つ両手をは上げて、潮流の上の光のみなぎった空間に身をおどらせていた。
えね夜、ぼくはみんなに取り囲まれ、昼間の無謀をからかわれた
。「勇ましいね、ネンは。全然泳げないのに飛び込むんて。」
なと先生が言った。「どうしんだい、まったく。」
た「わからん、自分でも。」
ぼくは答えて笑った。が、あの時、瞬時に自分の身を襲った錯乱と、それに続く行為の意味が、自分ではよくわかっていた。
あの時、利彦と先生の体は、大きな波のうねりになぶられながら、固く結ばれていた。かれらは青いにおいをたたえて蒸れている潮の流れの中で、互いに呼び合いながら雲に向かって進んでいた。陽光の中でその親密な交情を知った時、かれらを雲からおれのほうに呼びもどすのに、ほかにどんな方法があっただろう。
「ネンは陸上では、ハイジャンプでもなんでも得意だけど、水ん中じゃ全くだめなんだな。まるで屑みたいに海に浮いてるだけじゃないか。リーはその反対だし? ?? ?。おまえたちはウミヒコ?ヤマヒコだよ。」
先生がそう言って大きな声で笑い、しばらくしてみんなが大声で笑った。ぼくはその笑いの中で(B)だんだん気持ちが明るくなり、あの時も何かこんな感じだったなと、四月の始業式の日、先生が担任教師として初めてぼくら三Bの教室に現われた時のことを思い出していた。
「山田年彦に、山田利彦か。こいつは困ったな。」
出席薄を手にして教壇に突っ立ったまま、先生は身長のわりに小さな黒い顔に照れたような笑いを浮かべて言った。そして目玉をせわしく動かしてみんなの額を見回していたが、やがてその目を輝かして言った。
「そうだ、音で読めばいいんだ。ネンヒコ、リーヒコ。よしこれでいこう。」
言い終わると同時に、教室じゅうの者が思わず顔を見合わせるほどの大きな声を立てて笑った。その笑いはすぐにみんなに伝染し、教室じゅうが笑い声でいっぱいになったが、ぼくは先生の。(C)白い歯並みの奥から吐き出されてくる野放図な笑い声に、なぜかほおがほてってくるのを覚え、この人は頭のよい人だなきっと、と思って気分が晴れ晴れした。
あの時以来、ぼくは先生にネンと呼ばれ、利彦はリーと呼ばれてきたのだが、これからはまた、ヤマヒコ、ウミヒコというちがった呼び名ももらったんだなと楽しくなり、みんなの笑い声に包まれているあいだは、昼間突然自分の心を襲ったあの何かくろぐろとした気分からは、すっかり解放されていた。
問一(A)「ぼくはそれに....おどらせていた」とあるが、このような行為をとった理由として最も適当なものを、次のア?エの中から一つ選び、符号で答えなさい。
解答
問一それは羨望と感嘆と反抗との入り混じった不思議な感情であった。
問二エ
問三イ
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